第5回ITS地域交流会 in 熊本2013(2013年7月31日)
【第5回 ITS地域交流会 in 熊本2013 開催報告】
~ 交通まちづくりとITS/ICTの利用を考える ~
2013年7月31日、熊本市において“ITS地域交流会 in 熊本”を開催した。
1.実施概要
近年、地域においては、少子化、高齢化、過疎化、産業衰退が進むなかで、ITS/ICT技術を活用して、地域モビリティを確保しつつ魅力あるまちづくりを進める取組みが注目されている。
5回目となる今回は、熊本県内の自治体の都市計画や交通政策、情報企画に係わる政策担当者と、共催である一般財団法人九州経済連合会の会員を参加対象者として、有識者による講演と地域で取組まれている具体的な施策の事例紹介、参加者全員によるワークショップを行った。
1) 日 時:2013 年 7 月 31 日【水】13:30 ~ 17:30
2) 会 場:熊本市国際交流会館 ホール
3) 参加者:熊本県内自治体の都市計画、交通政策、
情報企画に係わる政策担当者、九州経済連合会の会員
4) 参加人数 : 市町村(31名)、県(6名)、民間企業(18名)、登壇者・大学 (8名)
5) プログラム:配布プログラム
第Ⅰ部 講演
第Ⅱ部 事例紹介
第Ⅲ部 ワークショップ ~知恵と工夫とアイディアで豊かにできる地域の交通~
・グループ意見交換(グループに分かれての、意見交換と討議)
・登壇者への質疑、全体ディスカッション
2.講演内容
2-1)講演
1) 地域交通計画を進める上でのコーディネートとガバナンス
~三位一体で進める熊本市公共交通の再デザイン~
(熊本大学大学院 自然科学研究科 教授 溝上章志 氏 )
2) 総合都市交通計画とITS ~ITS活用のポイント~
(一般財団法人 計量計画研究所 研究部 主任研究員 森尾 淳 氏)
2-2)事例紹介
1) 地域が求める公共交通へ~予約型乗合タクシーの取り組み~
(熊本県 長洲町 まちづくり課 企画調整係 課長補佐 松林智之 氏)
2) 遅い交通とまちづくり~中心市街地における都市改変事業の取り組み~」
(愛媛県 松山市 都市整備部 都市政策課 主幹 石井朋紀 氏)
3) 双方向通信型バスロケーションシステムの試作と今後の展望
(国立熊本高専 建築社会デザイン工学科 准教授 橋本淳也 氏)
4) 簡易バスロケ・ローテクシステムが伝える利用者側に立った情報のあり方
(ITSアライアンス株式会社 代表取締役 若山裕一 氏)
3 .ワークショップ
3-1)グループディスカッション
参加者と登壇者が6つのグループに分かれて、講演内容や事例紹介、地域の
交通課題につい て討議・意見交換を実施した。
3-2)登壇者への質疑、全体ディスカッション
登壇者全員がパネラーとして檀上に上がり、熊本大学大学院の溝上教授をモデレータとして
グループ毎の討議の結果(質問、課題、意見等)を聞きながら、回答、解決へのヒント、
講演の補足説明等を行った。
主な議論
- パーソントリップ調査の苦労や新しい知見について
地方都市が実施するにあたっては色々な名目の事業費を活用する必要があった。被験者へのインセンティブの与え方は最初は多くして次第に減らすような工夫をした。高齢者の行動は前期高齢者と後期高齢者で違うことがわかったので今後は区別して考えた方が良い。 - 公共交通機関の利用者を増やすにはどうしたら良いか?
バスの乗り方がわからない人が少なくない。PCやスマホでネットから情報を得られない人に対しては無料のバス時刻表に付記する等、様々な方法で乗り方等を伝える必要がある。長洲町のきんぎょタクシー(予約型乗合タクシー)は「玄関から目的地まで」を「電話でオペレータに伝える」だけであり高齢者でも安心して乗れるため、導入前よりも利用者が増えたと考えている。 - 新しい公共交通(コミュニティバスや乗合タクシー)導入時の効果的な周知について
色々な場所に行政側が出向いて顔を合わせて説明した。次第に口コミでも広がっていった。 - 遅延している公共交通の車両を優先的に通す欧州の事例
ローザンヌでは、バスロケで管理されているバスの遅れ情報を警察に提出して要請する事で、遅れがひどいバスについて優先して通すという事例がある。熊本市等でも少し郊外であれば可能だが警察と調整する必要がある。 - 中心市街地での駐車場の増加を抑えるにはどうしたら良いか?
大都市では混雑時に混雑料として駐車場料金を高くしている例がある。行政が駐車場を整備したいエリアと無くしたいエリアを明確にし、市街地の周囲に安い立駐を増やすために例えば駐車場の床面に対する課税を優遇する等のアイディアもあるのではないか。 - コミュニティバスの課題(大幅遅延、バス位置不明、市民へ情報提供不可)への対応
特定小電力無線を活用したバスロケシステムならランニング費用が安く抑えられる。バスロケ情報をネットにアップすれば市民はバス位置を知ることができる。例えば子供の居場所を親が知ることができるGPS携帯を運転手に持たせると、少なくとも運行事業者はバスの位置が分るので市民からの問い合わせに答えることができる。 - ワークショップでモデレータをしていただいた溝上教授によるまとめ
本日の参加者の中には、ITSという言葉は知っているが、どんなもので、最先端では何ができ、自分たちが今使っているものはITSと呼べるのか?という思いの方も居ると思う。ITSは元々は道とクルマを対象として始まったが、近年では公共交通や都市の人々の行動把握などにも使われてきている。
ITSは道具であって、大事なのはそれを使って何をやるのか、また、どういうサービスを市民に提供したいのか、を先に考える事である。地域公共交通総合連携計画を十分に議論した後、その中にどうITSを実装して使っていくのかを考えていただくと良い。そのためにはITSでどんな事ができるのかを知っておくことが重要である。
道路交通情報や公共交通の運行情報等、色々な情報を使う際に日本では制約があることが多い。制約が少ない韓国では既に道路交通情報と公共交通の運行情報が一元的に提供されている。
ビッグデータの使い方についても日本ではまだあまり考えられていない。
「こんな情報が欲しい!」と皆さんから声をあげて、それを実現してくれる企業を探すようにすると、自分たちの街に合ったITSが作れる。
4 .最後に
ITS地域交流会ではこれまでも行政の担当者と講師と一緒になってのグループ討議を行ってきたが、民間企業も加わってのグループ討議は初の試みであった。産官学の参加者が地元の交通課題やITS活用について議論する場は希少かつ新鮮であり、地域の具体的な課題や事例を題材にした密度の濃い議論が行われた。
本交流会での議論や、本交流会で生まれた産官学の新しい人の繋がりが、今後の地域モビリティやまちづくりへのITS/ICT技術の活用、地域特性に合った政策の立案や実施等、参加者各位の業務に役立てば幸いである。
《 参考資料紹介 》ITS地域交流会とは?(ITS Japanの地域ITS活動)