地域のモビリティサービスを考えるフォーラム2020
■開催概要
本フォーラムは、地域の公共交通の現状から一歩踏み出して課題解決に取り組んでいる交通事業者や自治体の先進的な取組みを、11/27に改正・施行された地域公共交通関連法案を先取りした参考事例として紹介したうえで、会員企業を含めた関係者で今後の地域のモビリティサービスについて、議論できる場を作ることを目的に開催しました。
昨年も同様のフォーラムを開催しましたが、今年度はコロナ禍での開催となったため、Zoomを使用したオンライン開催としました。
第1部の講演では、今回の地域公共交通関連法案改正に関する国の検討会の主要メンバーでもあり、地域に深く入り込んで地域の交通課題の解決にご尽力されている福島大学吉田先生と、先進的な取組みを進めている交通事業者から熊本都市バス様、自治体から岩手県北上市様、埼玉県飯能市様にご登壇頂きました。
第2部のグループディスカッションでは、登壇者の取組みに合わせて4つのグループを作成し、登壇者と会員企業の皆さま、ならびに事務局メンバーも加わって、地域の移動課題解決や地域の実情に見合ったモビリティサービスの実現に向けて、前向きなディスカッションを行いました(Zoomのブレイクアウトルーム機能を使用)。
第3部では、参加者全員でグループディスカッションの討議結果を共有しました。
本フォーラムには、登壇者、ITS関連省庁、特別会員、委員会・研究会の有志、事務局含めて51名の参加がありました。初めてのオンライン開催ということもあり、うまく運営できないところもありましたが、皆さまのご協力により無事に終えることができました。ご参加ありがとうございました。
登壇者の講演資料につきましては、会員ページからダウンロードできます。
⇒資料のダウンロードはこちら(会員限定ページ)
■プログラムと講演のポイント
日 時 :2020年12月4日(金)13:00~17:15
開催方法:Zoomによるオンライン開催
◆基調講演:
福島大学経済経営学類准教授 吉田 樹氏
テーマ:改正地域公共交通関連法・独占禁止法特例法の活用方策
~輸送資源の総動員と統合型移動サービス実現に向けて~
◆交通事業者、自治体の取組み紹介
①熊本都市バス株式会社 代表取締役社長 高田 晋氏
テーマ:熊本の共同経営によるバス事業の活性化
②岩手県北上市都市整備部都市計画課 課長補佐(公共交通政策) 高橋 正貴氏
テーマ:“あじさい都市きたかみ”実現のための交通ネットワーク
③埼玉県飯能市市民生活部生活安全課交通政策室 室長 佐野 敬子氏
テーマ:市・事業者・地域が総動員で「まもる・育てる・つくる」公共交通
■基調講演:福島大学吉田先生
テーマ:改正地域公共交通関連法・独占禁止法特例法の活用方策
~輸送資源の総動員と統合型移動サービス実現に向けて~
●地域の移動とお出かけの問題、乗合バス事業者の現状、求められる地域公共交通マネジメントの
ために制度を活かすべき
●11/27施行の改正地域公共交通関連法・独禁法特例法の解説
・地域公共交通計画策定の努力義務化
・乗合バス事業の共同経営が可能に
・乗合型の公共交通以外の協議運賃が事実上可能
・輸送資源の総動員:公共交通、自家用有償に加え、学校・
福祉・商業施設等への送迎車の活用
・市町村運営有償運送が「交通空白地有償運送」と
「福祉有償運送」に編入
■交通事業者、自治体の取組み紹介
熊本都市バス株式会社 代表取締役社長 高田 晋氏
テーマ:熊本の共同経営によるバス事業の活性化
●今年度の取組み(準備)状況
①あるべきバス路線網の実現に向けた取組
あるべきバス路線網とは、利用者のニーズに 沿った利便性の高い持続可能なバス路線網を指し、
この実現に向けて路線バス事業者5社がその垣根を越えて取り組むことはもとより、鉄軌道事業者
・タクシー事業者・関係機関・地元自治体等とも緊密な連携を進める。
②共同経営計画の策定・実施
・需給バランスの調整による運行の効率化
事業者間で利害が対立するような路線は、競合する事業 者同士で運行系統を調整(委譲/再配分)し、需要と供 給のバランスが取れた便数を確保(適正化)する。
・ラウンドダイヤ化による利便性の維持・向上適正なサー
ビス内容(路線・ダイヤ・運賃等)を事業者同士で調整
し、ラウンドダイヤ化による待ち時間の減少など、バス
利用者の利便性の維持・向上を図る。
③分析システムの構築・活用(5社データを統合化)
フォーマットの異なるデータを5社まとめて取り込み、路線再編、ダイヤ見直し、各社業務の効率
化に活用する。
岩手県北上市都市整備部都市計画課 課長補佐(公共交通政策) 高橋 正貴氏
テーマ:“あじさい都市きたかみ”実現のための交通ネットワーク
●『あじさい都市』きたかみ ~都市機能の集約と地域連携による持続可能な都市~
あじさい都市とは、都市を構成する地域コミュニティごと
に歩いて移動できる範囲に生活を支える都市機能を集中さ
せながら、都市全体を支える核や他地域と連携・共生して
いく都市のあり方で、キーワードは、『都市拠点・地域拠
点・公共交通』としている。
● 拠点間交通と地域内交通の「結節点」と北上市の地域公共
交通サポート事業
主に中山間地の輸送を担う地域内交通と各地域拠点と都
市拠点を結ぶ拠点間交通の結節点を設置し、日ごろの買
い物やお年寄りのコミュニティの場となっている。また、地域主体の運行にむけて、財政的な支援
だけではなく、北上市地域公共交通サポート事業として、勉強会等の実施、運行方法のアドバイ
ス、運行計画の策定支援等も公助として実施している。
埼玉県飯能市市民生活部生活安全課交通政策室 室長 佐野 敬子氏
テーマ:市・事業者・地域が総動員で「まもる・育てる・つくる」公共交通
●市・交通事業者・地域が協働して「まもる・育てる・つくる」公共交通
【3つの基本目標】
・地域の幹線交通としての路線バスを「まもる」
貨客混載事業や地域が主体となって、路線バスを維持
確保する
・路線バスを身近にして公共交通を「育てる」
利用しやすい公共交通環境をつくり、おでかけを促進
する
・生活を支える公共交通手段を「つくる」
スクールバス混乗制度、施設送迎車を活用した新しい移動
サービスなど
●足りない部分は総動員で
・暮らしやすい地域の移動・交通を地域、事業者、市が一丸
となって検討・導入する
・自家用有償運送、助け合い移動サービス、乗合ワゴン、スクールバス混乗、施設送迎車を活用した
新しい移動サービスなど
■グループディスカッション
グループディスカッションでは、4つのグループを構成しZoomのブレイクアウトルーム機能を使用して、グループ毎に以下のディスカッションテーマを設定し、登壇者を交えた参加者全員でディスカッションを実施しました。
◆ Aグループ:公共交通関連法案改正に伴う地域のモビリティサービス構築
・「独占禁止法特例法」を適用した共同経営で解決できること、残された課題など
・「輸送資源の総動員」において、自治体と交通事業者の関与が高まることについて
・新モビリティサービスについて
◆ Bグループ:複数事業者での共同経営
・新たな枠組みづくりの現状の課題感と今後の進め方について
・公共交通における公的負担の分担について
・利用者目線として路線バスに質・量の期待に叶う共同経営について
◆ Cグループ:地域内交通の維持・確保への仕組み
・各地区の課題と実際の移動サービスの作り方について
・交通結節点の仕様、運用について
・今後の持続的公共サービスについて
◆ Dグループ:地域の移動ニーズに応じた新たなモビリティサービス
・移動課題を抱えておられる路線周辺住民の把握について
・地域・事業者・市が総動員で守る「くらしの足」について
・ボランティア輸送、自家用有償運送を担われている方について
各グループでの議論のまとめを参加者全員で共有した後に、吉田先生からフォーラム全体の総評について、以下のコメントをいただきました。
・今回の法改正を契機に、軸となるモビリティサービスを考えたうえで、乗り換える環境(拠点)を
どう作るか
・行政サービスと民間サービスのなじませ方も課題、技術と現場の対話がこれから求められる
・地域側でデータを扱える人材育成も急務である
本フォーラムでは、公共交通関連法案改正に至る背景や制度の活かし方、独占禁止法特例法による交通事業者の協働、自治体と地域コミュニティとの連携による移動課題解決など、地域側で具体的な取組みを推進する関係者と対話する場を持つことで、フォーラム参加者の統合的な移動サービス検討への気づきやITS Japanのこれからの活動に多くの示唆があったと思います。